彼女は僕を「君」と呼ぶ
「ちょっと満島さん聞いてるの?」

どうして彼女も私の名前を知っているのだろう。彼もまた私の名前を知っていた。

なんの接点もないのに、覚える必要はないのでは?流石にそれを口にすると、彼女に何を浴びせられるか分からない。

しゃがみ込んだまま、彼女を見上げた。

「どこかが好きなの?」

じっと見つめ返すと、先程までの怒りは音を立てて萎んで、わなわなと震えていた。

なんとも奇妙は光景だ。棗には想い人がいて、何を勘違いしたのか、久野はもじもじと口元を動かし照れくさそうな顔をする。

恋する女性は綺麗なのだとテレビの向こう側で言っていた。今の彼女は綺麗というより可愛い。

「そんなの聞いてどうするの」

はっと冷静になった彼女がまた強く拳を作った。
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