彼女は僕を「君」と呼ぶ
「笑ってもらっていいんだけど、私小野寺先生が好きなの」
はっきりと言うに越したことはない。
何度も笑われてそれに笑ってしか返せない自分が嫌だったが、少しの事では彼女は引いてくれないだろう。
見開かれたその目から視線は外さない。決して嘘ではない。
「もうずっと好きなの。ずっと、貴女がその葉瀬君が好きなようにずっと」
棗の言葉に暫く考え込んだ後、静かに口を開いた。
「話し方がゆっくりなところ」
すとんと、彼女は隣に腰を落とした。
人が人を好きになる理由の共感は、もしかしたらできないのかもしれない。
ただ単純に「格好いい」とかの明確な理由こそ、好きではないのかもしれない。彼女とは仲良くなれる気がする。
「うん。うん。って絶対最後まで遮らないの」
それは分かる。一方的に話していてもそうだ。悠生について話していてもなんの気なしに聞いてくれる。
新しい情報を用意して。いい人なのだろう。
ぽつりぽつりと彼女がくれる私の知らない葉瀬維の顔。
此処に来る時は一体どんな顔をして、何を思ってくるのだろう。
私に気がある?まさか。先生が好き?もっとまさかだ。