彼女は僕を「君」と呼ぶ
「久野澄香さんに君が好きだと告白されました」

一体何がどうなって、久野は彼女に告げたのだ。
伸ばした手もそのままに、顔をゆっくりと彼女の方へと戻す。
彼女はなんと返したのだろう。

「葉瀬君とはどなたですか?って」

あぁ、それは聞きたくない情報だった。やはり彼女は自分の名前を知らなかった。

呼ばなくても不便はないから「君」で維自身も返答するから。

久野も驚いた事だろう。自分の元に通ってくる男の名前すら知らないのだから。

その上、自分が好意を寄せる相手ならば尚更の事。きっと、言わなくても良かった事を口走ってしまったのかもしれない。

その半面で、名前の認識を再度してくれたのではと喜んでいしまった。

久野の気持ちは維には届いてこない。
維が彼女に向けるそれと同じように。
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