彼女は僕を「君」と呼ぶ
教室から出てくる人の波を逆流して向かうと、廊下の先を曲がっていく姿を見つけた。

「久野さん!」

その声に驚き、少しばかり彼女は肩を震わせて維の方を見やった。

膝の上に両手を付いて、息を整える。こちらを見やった久野の瞳がゆったりと瞬きをする。聞く準備はきっと彼女の方が出来ている。

「これくらい!」

拳を突き出した。親指が上になるように。

「いつも、これくらい背伸びをするから、それが一生懸命でその視界に入れなくてもいいって思った。だから好きとはなんだか違う気がして、でもこの空間が好きだと思った」

大人と子供の距離、想いの丈、たった10cm足らずのそこに全てがある気がした。

「そんな彼女だから好きになりました」
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