彼女は僕を「君」と呼ぶ
◇◆

「おれはそのすり減った分、満島さんの想いだとさえ感じますよ」その一言が私の全てを代弁してくれた。


こんなの、子供染みた憧れの延長線だと分かっている。

頭ではちゃんと理解をしているものの、心は上手くついてこない。

私の視界は息苦しいのだ。水面に使っている様に背伸びして漸く息が吸える。

背伸びをした分、それだけ近づいた気がした。

最近、踵が下りている事が多くなった。

ちらりと盗み見れば寒そうに手を擦り合わせている旋毛が見える。

あの日、招待状が届いたのだ。真っ白なカードに満島棗様とあった。

白い筈なのに棗の中は真っ黒で、その後ろ姿に視界が歪んだ。

誰でも良かった。涙の膜が張った視界で手を伸ばして捕まえたのが君だっただけ。

女の子は恋に恋をする生き物だ。
そんなふわふわした空想の世界なのに、そっと話してみれば笑われてしまった。現実的ではないと。

そういうのは、あくまで物語だからいいの。なんて言われてしまい、口には出せなくなってしまった。

そんな中で、彼という存在は些か歪ではあったが悪くない存在だった。

自分の気持ちを否定せず、受け止めてくれる様に頷いてくる。

久野が言ったように、ゆったりと話すからだろうか。クラスにいる声の大きい男子とも、俯いてブツブツ話す男子とも違う。

待つように探るように話す。それは少し分かるような気がした。

開かれない扉に視線が向いた。あれ以来。彼は来ない。理由は自分にあっただろう。
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