彼女は僕を「君」と呼ぶ
「私も言おうと思うの」

それは、小野寺教諭に好きと告げるという事だろうか。
結婚式は明後日だそうだ。春休みを利用して挙式とハネムーンまでを一緒にやってしまうらしい。
こうして目一杯彼を閉じ込められるのは今日だけ。
終業式も終え、殆どの生徒が帰ってしまい酷く静かだ

「最後にするのこの気持ちに」

言えば彼女の気持ちが落ち着くという事だろうか。

何も見返りを求めず、ただ、告げてしまう事で解決するとは到底思えないが、それが彼女にとっての区切りというやつなのかもしれない。

彼女のローファーは何時も通り、つま先がすり減った物、これの分見ていたのだ。

それを知っているのは自分だけ。それだけはどうか、気づかないでほしい。

「途中まででいいの、一緒に来てくれる?」

手を取られ、冷たい指先が小刻みに震えてるのを感じる。

なんて残酷な事だろう。内なるもう一人の自分が嘲笑うが、少し気分は違う。

一緒について行って何が変わる分けではない。彼女の気が済むなら。

「分かった」

ゆったりとした足取りは扉が閉まるまでで、走り出した彼女の背中についていく。
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