そんな結婚、あるワケないじゃん!
「本当…?」と不思議がる菅野の顔を見つめる。
まさか、こんな状況下で梨花の話が飛び出すとは思ってなかった。



「………嘘じゃねぇな」


呟いて手を離した。
あの頃の自分を思い出して、思わずそんな行動を取った。


「俺はあの頃、今以上にガキだったから…」


あの美人を彼女にして、離れていかれるのが怖かったのは俺の方だった。

冷たい態度を取ってさえいれば、自分に自信のない梨花が、俺の側から離れることはないと信じてた。



『離さないで。何処にも行かないで…』


口癖にように囁く言葉は今でも胸の中に残ってる。

でも、だからこそ今、同じことを繰り返さないようにしたいんだ。


「……俺は梨花を独占することしか考えてなかった。冷たくすることで側に寄ろうとする梨花に酔いしれてたんだと思う。だから、まさか派遣先で他の男を好きになるとは思わなかった……」



『とっても優しい上司なの。何でも助けてくれるし、すぐに褒めてくれるし、笑いかけてもくれる……』


自分とは違う態度を見せる男について散々聞かされた。


最初のうちは憧れみたいに言ってた言葉に熱がこもり始めたのはいつ頃からだろう。


話す顔がキレイになりだして、梨花の目が俺じゃない男を見てる…と気づいた。





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