アタシ、好きって言った?
涙の笑顔
ナツと話した次の日、僕はバイクを走らせていた。
冷たい風が身体中の体温を容赦なく奪っていく。
「あの店で待ってる」
メールしても返事はなかった。
でも、ナツに逢わなきゃ・・・。
ただその想いでバイクを走らせた。

いつもの店のいつもの場所。
何時間座っていただろう。
眠気に勝てず、僕は寝てしまった。

誰かが右肩を叩いた気がした。
「まさか、閉店までいたのだろうか?」
「すいません!今帰ります!」
席を立ち上がり店員に言ったつもりが、そこにはナツが立っていた。
「本当に来るんだもん」
ナツは笑っていた。
僕は涙が溢れナツを抱き締めた。
「泣き虫だなー。・・・出よっか?」そう言ってナツは僕の頬にキスをした。

僕はバイクを近くの駐車場にいれ、ナツが待っている場所へ向かった。
「ゴメン・・・逢いたくて逢いたくて」
ナツは僕の髪の毛をぐしゃぐしゃにして
「分かってる」とだけ言った。

手を繋ぎナツと通いつめたホテルへ向かった。

ナツは昼間の仕事の話を楽しそうに語った。
「アタシ今日12件も機種変更したんだよ?
多すぎじゃない?」
時計は20時を過ぎていた。
「今日泊まれるの?」
ナツに聞いた。
「泊まらないよ。でも、ホテル行こう」

初めてナツと来た部屋が空いていた。
僕とナツは何も話さずに求めあった。
久しぶりのナツはとても綺麗で刺激的だった。
キスをするたびに、ナツの頬を涙が横切った。


「子供どうするの?」
ナツは黙っていた。
「俺・・・」
「アタシ、産むつもりないから」
「もう3回目だし。あいつ、産むの許さないし。」

今日のナツは元カレや自分の話をたくさんしてくれた。
高校生の頃から付き合っては別れてを繰り返してきたこと。
元カレは高校を卒業し絵描きになったが収入が安定せず、その都度ナツがお金を渡していたこと。
高校を卒業し短大に進んだナツが、アルバイトでは厳しくなり、家族には絶対バレないという謳い文句に騙され、高利貸しの罠にハマってしまったこと。
雪だるま式に増えた借金を返済する為に、風俗の仕事をしていること。
「アタシ毎日パパとママに嘘ついてる」
ナツは泣いた。

「もう、ソイツに会うのやめなよ。借金は僕がバイクやレコード売ればなんとかなるよ!けっこうレアなレコードたくさんあるし!」と言った瞬間、ナツは僕の頬を殴った。
「アタシ、シン君に借金返してって頼んだかな?前にもそんな話したよね?」
ナツは以前の会話をちゃんと覚えていた。
ナツは泣きながら怒っていた。
「ゴメン。でも、僕は・・・」
「もう帰るよ。送って」

帰り道、ナツはまた昼間の仕事の話をした。
無理にでも二人の会話が続き、笑い声が生まれるようにナツは話し続けた。
マンションの前に着くと
「送ってくれてありがと。片付いたら連絡するから」
そう言ってナツはマンションの中に入っていった。
ガラス戸を閉めると僕に向かって笑いながら手を振った。
でも泣きながらの笑顔だった。
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