香りに誘われて
視線を左に向けるとなんとこの男は私の左肩にもたれ、眠ってしまっていたのだ。

ちょっと・・ちょっと困るよ。

慌てて自分の体を不自然に動かしてみたが反応なし。

しかも彼からはほんの微かな香水の香りがした。

あんなに香水は嫌だって思っていたのに

彼の香水は不思議なほど彼のイメージに合った香りに思えた。


・・・何かすごく・・・すごくいい香

だがそんな思いはすぐに消えた。


何考えてんの?名前も知らなければ何やってる人かも知らないのに

彼の持つ香りだけでドキドキするとかあり得ない

それにあと3つ目の駅で降りるんだけどなーー

この重い頭から解放されたくて再び、肩をもぞもぞと動かしてみるが

全く動く気配なし。


どうしよう、どうしようと言う間に自分の降りる駅を告げる

アナウンスが入った。

「あの・・あの・・すみません」

小声で、もたれかかる男に声をかけるがピクリともしない。

電車は私が焦っているうちに駅に着いた。

でも香水男は全く起きる気配がない。

しかも終電で人もあまり乗っておらず、救いの手を差し伸べる人などいない。

っていうか私が困っていることすら誰も気づいていない

だが電車は待っちゃいない。

焦っているうちに無情にもドアのしまる音がした。
< 4 / 10 >

この作品をシェア

pagetop