香りに誘われて
え?何で知ってんの?うそ・・・まさかストーカー?!

もしそうだったら今まで気がつかなかった自分は相当な馬鹿だと思った。

そして今おかれている状況に恐怖さえ感じた。

だが、男はフッと笑うと胸元から何かを取りだした。

それはめがねだった。

そしてめがねをかけて顔を上げた途端、私は目を見開いた。

「あっ!」

その顔には見覚えがあった。

それは元彼の隣に住んでいた夏川君だった。

「その顔は思い出した様だね。夏川智樹です。お久しぶり」

あの頃、元彼の懲りない浮気の度に喧嘩して何度も部屋を飛び出した。

その時話を聞いてくれたのが、隣に住んでた夏川君だった。

靴もはかずに彼の家の前で泣いていたら夏川君が、

ここじゃ迷惑になるからと言って公園で話を聞いてくれたのが最初の出会いだった。

それから彼との喧嘩の度に私は夏川君に愚痴を聞いてもらっていた。

「どうして・・・ここで降りたの?」

彼の住んでたマンションは逆方向だったはず。

「引っ越したんだ・・・・この近くに」

・・・正直言うと、私も彼より夏川君の方がずっと優しくていいと思っていた。

だけどこっちを辞めてこっちって・・物じゃあるまいし

そんな事、夏川君にも失礼なような気がして考えないようにしていた。


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