あまつぶひとしずく
「静音に会いにきたに決まってんじゃんばーか」
ああ……そっか。
そうだよね。
クラスが離れても、ちょくちょくあたしたちの教室に訪れていた康太。
それは付き合うようになると、より頻繁になった。
楽しくて、嬉しくて、大切な時間。
だけどとても……切ない。
「はいはい、康太くんは静音にでれでれですからねー。
もういい? あたし自分の席に行きたいんだけど」
「こんにゃろ……!」
なによ、文句でもあるって言うの?
遅刻しちゃったから1限目のノートを静音に借りたいし、わずかに濡れた荷物も置いてしまいたい。
イライラするから康太の顔なんて見たくない、殴りたい。
「もう、康太くんはまたそんなこと言って……。
ちーちゃんあのね、渡すものがあるの」
そう言って、静音があたしと康太の腕を引いて、自分の席へと行く。
するすると机の間を抜けた。
「静音があたしに渡したいものってなんかあったかな……」
首を傾げると、静音がふふふっと声をもらす。
反応を不思議に思っていると、意識して無表情にしていることがうかがえる康太が静音のそばにたてかけてあったものを手にした。
「……やる!」
ぐいっと無理やり押しつけられたのは、紺色の、女性ものの傘だった。