あまつぶひとしずく




「えっと……これは?」



そっと傘の柄(え)を握った。

困惑で声がにじむ。



「この前傘、壊したから。その詫びだよ」

「駅と繋がってる雑貨屋さんにわざわざ行ってね、ちーちゃんに似合いそうだからって買ったんだって!」

「あっこら静音、余計なこと言うなよ!」



静かに、音もなく息を逃す。

忍ぶように、溢れ出しそうな感情を抑えてのどの奥をきゅうとしめた。



どうしよう、……嬉しい。

嬉しくてたまらない。



康太が選んでくれたことが、恥ずかしがってそういう店には行きたがらない康太が自分の足を運んでくれたことが、あたしの心にぬくもりを与える。



幸福感に包まれて、あたしは今どうしようもなく、泣きそうだ。



「気に入らなかったなら、使わなくていいよ!」



ふんっと拗ねたように顔をそらした康太に対し、首を横に振る。



「違う……」

「智沙?」

「ありがとう、康太。大事にする」



真新しい綺麗な傘を胸に抱き寄せる。

それだけで想いが、涙が、溢れそうになる。



「……おお、大事に使え」



あたしの素直な反応に照れた康太が偉そうに口にする言葉さえも愛おしい。

こくりと頷く。



「……よかったね、ちーちゃん」



そう言って笑ってくれた静音の表情は、少しだけ。

ほんの少しだけ、さみしそうだった。



だけど、自分のことでいっぱいいっぱいだったあたしは、気にとめることなくうん! と応えた。






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