あまつぶひとしずく
中学の頃から気があって、いつもそばにいた笠井 康太(かさい こうた)が恋をした。
それは去年の春、高校1年生になってすぐのこと。
その相手はあたしたちのクラスメート。
あたし、天野 智沙(あまの ちさ)が仲よくなったうさぎみたいに小柄で可愛い山本 静音(やまもと しずね)。
一目惚れだった。
1年以上もの間、あたしは康太を応援してきて。
ふたりが同じ美化委員になるようにしたり、先生の仕事を回したり、家庭科部の静音を家まで送るように仕向けたり……。
今年なんて康太だけクラスが離れたから、以前以上に協力してきたのに。
「わたしも、康太くんのこと好きだったの……!」
静音の柔らかく甘い声が耳に入り、あたしの顔はくしゃりと歪んだ。
泣きそうで、だけどそんなことできやしない。
ぎゅうと痛む胸を押さえつけた。
その瞬間、あたしは気づいてしまった。
ああ、今さら、なんてことだろう。
泣けないあたしの涙の代わりにあまつぶが降る。
ぽつぽつと、屋根に、傘に、弾かれる。
あたし、康太のことが好きだったんだ。
康太の片恋が終わったその瞬間。
あたしの片恋が、はじまった。