あまつぶひとしずく
そんなことを思い返しながら、視線は窓の外に向けたまま。
ぼんやりとしつつ廊下を歩いていると、隣を歩いていた静音に「ねぇ、ちーちゃん」と名前を呼ばれた。
迷っているかのように、力のこもっていない揺れた声色。
あたしは彼女の様子を不安に思い、視線を雨からそらした。
「なに、どうかした?」
首を傾げて尋ねてみると、静音の瞳がゆらゆらと揺れた。
「こんなこと訊くのってどうなのかなって、思ってる。
でもずっと、気になってたの。もしかしてって思ってたの」
「静音……?」
「ちーちゃん、本当は康太くんのこと……好きなんでしょう?」
かしゃん、と音がした。
あたしが預かったまま忘れていた、静音のペンケースを落とした音だった。
まっすぐな瞳をしたうさぎと目があったことに、心臓が冷えるような思いがする。
自然と足をとめたまま、そっと息を吸って、吐いて。
深呼吸を何度か繰り返し、冷静を装う。
ごめん、と一言謝りを入れて、ペンケースを拾いあげた。
「そりゃ好きだよ?
だって康太は友だちだし、当然、」
「そうじゃないよ!」
あたしの言葉を遮り、静音が大きな声を出す。
首を横に振って、彼女の表情は見えない。
「ちーちゃんだって、わたしの言ってる意味なんてわかってるでしょう」