あまつぶひとしずく
その瞬間、静音の瞳から涙が溢れる。
窓に伝う雨のように、いくつもの雫が頬を滑り落ちていく。
「泣かないで、静音」
とうとう荷物をその場に放り出して、彼女を抱き締める。
背中をさすると彼女がひくりとしゃくりあげた。
「ちーちゃ、が康太くんのこと、好きだったら、どうしよ、て、」
「そんなのありえないよ」
「ん……うん……っ」
彼女の手で涙がすくわれ、はらわれていく。
顔を歪めていても、泣き笑いの表情がまぶたに焼きつくほど美しい。
「ちーちゃん」
「なに?」
「ありがとう。ずっと応援してくれて、康太くんと付き合うきっかけをくれて、ありがとう……」
痛くて、優しい。
なによりあたしを傷つけ癒す、静音の言葉が胸にしみて、広がっていった。
「もう別れるなんてかんたんに言わないでよ」
冗談めかした軽い口調で、あたしは静音にそっと釘を打つ。
もちろんと頷いた様子に風が吹き抜けたような切なさを感じた。
こんな泣き顔じゃ教室には行けないし、と静音の腕を引いてあたしたちは保健室へと向かう。
授業が始まってしばらく経っていたから、なにをしているんだと言われるかもと言い合い、肩を並べて階段を降りた。
外では冷たい雨が、流れていた。