あまつぶひとしずく
濡れた足元を気に留めず、そのまま走って、走って。
康太と別れたところからずいぶんと距離が開いたところで、ようやくあたしは足をとめた。
「はっ……ぁ……」
切れた息を整えるために、深く深呼吸をした。
青い空を見上げる。
目を細めて、手で影を作った。
あたしは雨で、君は傘で。
空は何度も、いくつもの、涙を降らす。
どんなに苦しい時だって、あたしは康太の胸に飛びこむことはできない。
だからあたしは、君がくれた傘をさそう。
ぱんっと傘は開く。
綺麗な紺色の、さみしい夜の傘が空をすくう。
その下にあたしは立つんだ。
晴れの空の下、どうかあたしの涙を隠して。
ひとりで泣いて、散々泣いて、悲しみを全て流したら、すぐに手を離してふたりと肩を並べるから。
今までと同じように……それ以上に楽しそうに、笑うから。
変化は失うことじゃない。
ふたりが誰より近い距離で微笑みあうことは悲しいことじゃない。
あたしは、幸せだ。
「だからもう少しだけ……」
あたしと康太と静音の3人と、いつかきっと出会う誰かへと繋がっている。
そういう恋だったと思うから、思えるようになったから。
もう明日からはしばらくの間、雨は降らないだろう。
あまつぶひとしずく。
虹が浮かぶ水たまりに、最後のあたしの涙が、落ちていった。
fin.