あまつぶひとしずく
置き傘を盗られてしまった静音と、朝は降っていなかったからと傘を忘れて登校してきていた康太。
そんなふたりに放課後、傘を貸してあげたのは、あたしだ。
お気に入りの水色の傘を康太に押しつけて、行ってきなよ、なんて笑って。
あたしはひとり、ロッカーに入れたまま忘れていた折りたたみ傘で帰った。
その結果、昨日からふたりは付き合い始めた。
ずいぶん前からあたしはふたりの想いを知っていたからようやくといった感じなのに、ほっとすべきなのに。
それなのに、あたしの胸はきしきしと壊れかけの金属のように痛々しい音を立てている。
昨日の夜にはふたりともから個別に報告されたから、今朝は直接「おめでとう」と言ってあげるべきなのにその話題に触れることさえできない。
人より少し背が高く、胸があり、化粧が上手くても、中身はなにも変わっていない。
あたしは意気地がない、ただの子どもなんだ。
見た目だけ大人っぽくても、康太と同じくらいばかだし。
正直おしゃれなパスタよりがっつり肉が好きだし。
こんなんだから、一部でビジュアル詐欺師なんて言われるんだってことくらいわかってる。
だけど、簡単になんて変われないんだ。