あまつぶひとしずく
「本当にごめんね、ちーちゃんあの傘気に入ってたのに」
「大丈夫大丈夫!」
「でも……」
自然と聞こえる雨音に自分のぴちゃんという足音が混ざる。
そっと首を横に振り、彼女に笑みを向けた。
康太は見る目がある。
無駄に目を引くあたしといるせいで、ぱっと見はわからないけど、静音は綺麗だ。
心が、綺麗だ。
女性らしく柔らかい雰囲気と、丁寧な心配り。
彼女が好きなうさぎのように、繊細な可愛さと澄んだ瞳を持っている。
「お詫びは康太がしてくれるから、静音は気にしないで」
「えー、俺? チロルチョコでいい?」
「康太くんっ」
またそんなこと言って! と静音が愛らしく怒る。
それにしょんぼりと肩を落としている康太がいつもどおり笑える。
あははと声をあげた。
大丈夫、確かにあたしは笑っている。
康太のことよりずっとあたしを大切にしてくれて、付き合うようになってもあたしと3人でいてくれる静音。
彼女はとてもあたしを好きでいてくれる。
それに救われながら、中途半端に殺されていると、思った。
「……智沙? もしかして本当に調子悪い?」
まっすぐな彼の視線に射抜かれて、ぴくりと震える肩。
そんなわけないじゃん、とあたしは笑顔で応えた。
傘をくるりと回す。
ぱらぱら、とあたしの空がまた揺れた。