Fiore Zattera
アンティパスト
マフラーを巻き直して気を取り直し、再度部屋を出ようとした。今日は仕事はなくて、買い物に行こうとしていたところ。
「そういや、お袋さん元気?」
車出すよ、と言って貰えたことに甘えて幸も靴を履いていた。
聞かれた質問の中の単語を久しぶりに耳にした気がして、少し思考が止まる。
「壱花?」
「あー、うん。去年逝った」
玄関の扉を開けながら答えた。
「……去年?」
「ん」
鍵を閉めて、階段の方へ歩く。後ろを幸が着いてくる。
とんとん、と降る音が二人分。