Fiore Zattera
冬の序盤。マフラーは要らないけれどコートがないと寒い。
「ねえ、グレ男は料理人になりたかったの?」
徐に先輩が口を開く。
グレ男というのは、俺につけられたあだ名らしい。
髪色が灰だからグレ男。
答えに困る問いだった。先輩は答えを待っているのか、こちらを見ずに何も言わない。
「なりたいものとか、無かったです」
てきとーに答えたわけじゃない。
小学生のときに考えた夢は、本当に夢だ。職業とかじゃない。
「ってゆーかさ、いつからが大人なんだよって思わない?」
自嘲気に笑う。
この人は、穏やかだ。