Fiore Zattera
晴恵のリボンが曲がっているのが気になって、その端を持って解く。
「締め切ると暑いから、窓空いてるんだって」
「うん?」
「だから、昼夜構わず女の声聞こえるらしい」
手が一瞬止まった。リボンを結び直して手を離した。
あれから朝あの場所に行っていない。
関係ないことだ。菱沼が女にだらしないのは知っていたし、私が女であることも勿論わかっていた。
でも、あの場所では、私たちは「マドンナ」でも「族長の菱沼」でもないと思い込んでいた。
「夏休みさ、海行かね? 兄ちゃんが車出してくれるって」
何もコメントしない私に気を遣った真壁が話題を変える。