Fiore Zattera
白々しく言ってみた。
幸は眉を顰めて車のロックを開けてくれた。あたしは助手席に乗り込んで、フロントガラスから空の色を覗く。
「それに、幸の連絡先知らなかったし」
言い訳のように付け加えた。
運転席に着いていた幸は「誰か知ってる奴、いただろ」と返してくる。
「てか、彼女は? いつか連れて来てたよね」
いつか、は三年前。
あたしはそれをきっちり記憶している。
小さい街のことだ。退屈を持て余す人間たちが好むのは噂話。
人伝てに『幸が彼女を連れてきた』と聞いた後、あたしはその姿を見た。