Fiore Zattera
経験豊富な彼にとっては挨拶のようなものだったんだろう。
実際、お礼と言っていたし。ふざけていただけだ。
「はじめ……」
「この小説、続きが気になってたから」
「琴さん、」
「持ってきてくれて嬉しい」
「俺と付き合ってください」
アブラゼミが鳴いていた。夏だと実感した。
もうすぐ夏休みだ。
「……え、やだ」
ぐるぐると海に行くことばかり頭の中を巡っていた。ガレージの話は隅に追いやりたくて。
「なんで」
「なんでって、嫌なものは嫌だから」
「琴さん、こっち見て」
彼から遠い方の腕を掴まれる。怖いと思った。