Fiore Zattera
「そんなの、琴さんの前で無いのも同然」
それにしても、と続ける。
「陣内、あいつ半殺し……」
「親友なんだからもっと大事にしなよ」
「参考にだけしておく」
菱沼が箱を抱いて立ち上がる。私も同じように立ち上がって、その後をついて歩いた。
教室に戻ったら晴恵と真壁に報告しよう。
「あ。琴さん」
急に振り向いた菱沼が屈む。唇が重なってすぐ離れた。
「俺を助けてくれてありがとう」
「え、お父さん結婚申し込むとき土下座したの?」
娘の壱花が若干引いた顔をする。
「筋は通す人だったの」
思ってたより変なひと、と呟きながら写真の方を見た。
壱花と私と無邪気に笑う彼の姿があった。