Fiore Zattera
グレ男とはもうひとつ先の曲がり角で別れる。
「滅多にキレないって言われてましたけど」
「だからでしょ。意味わかんないことでキレるから困るって言われた」
危険物であると共に迷惑物でもあったわけだ。
「じゃあね」
「はい、気をつけて」
ぺこ、と頭を下げてグレ男は自転車に跨がった。あたしが歩き出すと、自転車が走る音が聞こえる。
マンションに戻って、暗くなった管理人室を見てから、自分の部屋の鍵を鞄の中から探していると、扉が急に開いた。
「びっ……くりした……」
「それはこっちの台詞。いつもこんな時間まで仕事してんのか?」