Fiore Zattera
アペリティーヴォ
マフラーをぐるりと巻いて、家を出る。鍵を咥えてブーツの紐を結んだ。立ち上がって扉の鍵を閉めてから階段の方へ歩いた。
車のエンジン音が聞こえたので、下を見る。
見たことの無かった車種だったので、気にせず階段を降りた。二階だからエレベーターよりも歩いた方が早い。
掃除をする管理人さんに挨拶をして、マンションを出た。
「いちか」
名前を呼ばれて立ち止まる。
車の持ち主だろうか、こちらに歩いてくる。
「……は」
「今から仕事か? 遅くないか」
「もしかして幸?」
腕時計を見ながらそう言った男が顔を上げた。