Fiore Zattera
仕事して帰ってわざわざこんな時間に店まで来てくれるなんて。
「どうもありがとう」
「電車停まってた?」
「うん。お陰でのんびり行けた」
管理人室は暗くて、階段を上がっていく。
「あのさ、幸」
「うん?」
「付き合ってる? あたしたち」
「は?」
その言葉には怒気が含まれていた。あたしが鍵を出して、部屋の扉を開ける。
肩を掴まれた。ぐい、と振り向かされて幸の方を見る。何だ暴力か、とあたしも拳を握った。
「こっち向いて」
「あ……はい」
そう、あたしはいつも幸の方をみていなかった。