Fiore Zattera
甲高い音が割れている。耳元から携帯を離した。
「管理人さんが勧めたんだって。あたし何も知らされてなかったのに」
『あーあ、壱花を怒らせたら怖いよ』
その声が聞こえたのか、あたしの後ろで静かに笑う声が聞こえた。
『結婚式はもう一人が生まれたらにしてね。式中に陣痛とか嫌だし』
「ん、じゃあまたね」
『はいはい、おやすみー』
切って振り向く前に、後ろから抱きしめられた。
扉を閉めて、肩越しに幸の顔を見る。
「お帰り」
「お邪魔してます。隣に越してきました菱沼です」
「偶然だね、あたしも菱沼」