Fiore Zattera

隣人が腕を緩めたのでくるりと身体を反転させる。

「引っ越し祝いは何が良いですかね」

「あ、隣街のスイーツ食べ放題が良い」

「……壱花、もう少し可愛い返答の練習をしようか」

あたしに可愛さを求めるなよ。
幸はその意志が目に見えたみたいで、あたしの前髪を梳く。

「あたしの、意味わかんないところでキレるのってお父さん似なんだって。お母さんが言ってた」

ずっと前に聞いた言葉を今も覚えている。

きっとそれはあたしがおばあちゃんになっても忘れることはないと思う。

お父さんをよく知らないあたしにお母さんがかけてくれた優しさだ。


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