あのすずの音が忘れられない
神様あんまりだよ、もうすぐ死んじゃうすずを何故、交通事故にあわせたんだよ。
まだまだやりたい事、沢山あっただろうに一年でも短いっていうのに、それを早めて何がしたかったんだ。
何故、すずなんだ?何故すずじゃあ無くちゃ行けないんだ。
僕は神様を呪いながら、泣いて、泣いて泣き疲れて眠ってしまった。
その日の夢に神様が出てきて、こう言った。
『お前の気持ちはよくわかった。確かにあんまりなことをしたかもしれん』
『だが、一度起こってしまった事は戻せない。だから、もう一度会うチャンスをやろう。』
『ここに居る動物たちの中で、お前の愛しいものを見つけたら、もう一度彼女と会うチャンスをやろう。』
僕は、目の前に広がる数百匹の動物たちをじっと眺めた。
サル、キリン、ゴリラ、ウサギ、ヒツジ、ヤギ、トラ、イヌ、ハムスターまで。
すずはどの動物になったんだろう。多すぎて、何が何だかわからない
途方にくれた僕は足元を見ると、一匹のネコがすり寄ってきた。
白い毛並みのその猫は、何の変哲も無いけれど「ミャア」と一声鳴いた瞬間に僕のすずだってわかった。
猫を抱き上げると、満足そうに目をつぶって僕の腕に収まった。
『すずは猫っぽいよね、本当に。機嫌がいい時にすり寄ってきて、機嫌が悪いとソッポ向いて、自由気ままで猫みたい』
すずは笑って『猫好きだから嬉しいかも』と笑った。
こんな些細なこと忘れていたよ、すず。
本当に猫になっちゃうなんて、すずは本当に自由気ままで、何をしでかすのかわからないね。
僕は猫を見て、神様を見て微笑んだ。
神様も微笑んで、僕たちに『帰りなさい』と言った。
夢から覚めた僕は飛び起きて、すずを探したけれど何処にもいなかった。
そして、その日、すずが息を引き取った。
しばらくは、葬式や、すずの荷物を整理するのに追われて何も考えられずにいた。
誰かが、葬式は亡くなった人のためではなく、遺族の為にあるんだって言っていたのを思い出して、なるほどなと思った。
ここ数日は色んなことに追われていて、悲しみに浸かる暇がなかったな。
でも、やっぱり一人になると考える。すずの顔、声、匂い。
一緒に暮らしていた時、気分が悪そうにしていたり、頻繁に体調を崩していたすず。
日を追うごとに、感じていた疑問と答えが線で繋がれていって
あぁ、やっぱりすずは病気だったんだなって理解する。
すず、君のいない世界はさみしいよ。
戻ってきてくれよすず。
大好きだったよすず。
どうして、僕に教えてくれなかったんだよすず。
僕は泣くことに疲れてしまって、仕事もしばらく休んで部屋の中に籠りきりになってしまった。
いい歳こいたおっさんが、ピーピー泣いて落ち込むのを僕の家族はそっと見守ってくれた。
その甲斐あって、仕事に復帰して、休日には親孝行をして、母さんを連れて買い物、温泉、どこにでも連れて行った。
すずのお母さんとも少しずつ、打ち解けてこの間僕の家族と一緒にご飯を食べに行ったよ。
お義母さんの事は心配しないでねすず。
そして、最近すごい事があったんだ、姉貴が職場で猫を拾って来たんだ。
薄汚れていて、小さくて最初は茶色い猫かと思ったんだけど、洗ってみると真っ白だったんだ。
偶然かな?神様って本当はいるのかな?
僕は慌てて、この猫を姉貴から奪い取って顔をまじまじと見てあの夢を思い出そうとしたんだ。
夢で見た猫に似ているかはわからないけど、僕をみて「ミャア」と鳴いたんだ。
その声を聞いて僕は何だか懐かしくなって、少し泣きそうになってしまったよ。
こんなに涙もろくなるなんてね。すず、君の所為だよ。
ありがとう、すず。
あのすずの音が忘れられない