あのすずの音が忘れられない
僕の仕事帰りに迎えに来てくれたすずと薬局に寄ることにした。
仕事場の最寄の薬局は24時間営業で、夜型の僕の生活には欠かせない存在だ。
「すずさん」
「何だい助さん」
誰だよ助さんって。
「ちょっと右に寄ってる」
すずは相変わらずバックでの駐車が下手だ。
「すずさん」
「何だい平八さん」
「今度は左に寄ってる」
ピーピーピーピー
バックの時の音が車内にこだまする。
無表情のすず。
え、僕はまた地雷を踏んだんだろうか?
「…だもん」
「え?」
「だって、ここの駐車場後ろのコンクリートのブロックみたいなやつが無いんだもん」
関係ないと思う。
なんて言ってはぶち壊しだ。
慎重に、すずを落ち着かせよう。
「そうか、たまにはこういう駐車場でも練習していくといいね」
完璧だ。
どうだすず、これで満足だろう!!!
すずは少し照れ臭いのかずっと右を見ながら「うん」と呟いた。
そんな様子に少し和む僕は多少マニアックなのかもしれない。
見たかすず!これが大人の包容力というやつだ。
気をとりなおしたすずは駐車に成功し、薬局に到着して1時間僕たちはようやく薬局に入ることができた。
すずと一緒にいて僕は忍耐力というものが多少ついてきた気がする。
すずは僕より若い、その若さは良いものであり時に鬱陶しいものでもある。
でも、すずも少しずつ少しずつ成長してきた。こんな事いうと保護者みたいだけどね。
親から連絡が来るたびに落ち込まなくなったし、夜泣いて眠れなくなる事もなくなった。
すずは顔も可愛いし、若いから成長したら僕なんて捨てられちゃうかもしれないね。
でも、僕は成長する前のすずも今のすずも、これからのすずも大好きだよ。
だからそんなに早く大人にならなくてもいいんだよ。
なんてね。
すずがレジで買い物を終えて走ってきた。
「ジュンジさん、シェービングクリームといつも使っている髭剃りの新しいヤツ出てたから買っといたよー!これで髭剃りタイムも短縮されるね!!!」
台無しだよすずさん、僕のシリアスムードをかえせ!!!
そして、人前でコンプレックスを刺激しないでくれぇぇ。
すずはいつも僕の調子を狂わせる。