キミが欲しい、とキスが言う


「馬場ちゃん、いいじゃん。お父さんになってほしいって言ってみれば」

「嫌だよ。馬場さんは好きだけど、お父さんなわけじゃない」

「なんで? 浅黄、お父さんいたらなぁって言ってたじゃん」


話の内容に息を飲む。
出ていきづらくて、塀の影に隠れて様子をうかがった。

こちらから見ると、幸太くんが手前にいて背中を向けている。彼の体の影から、浅黄のうつむいた姿が見えた。


「……お父さんがいたらいいのにとは思うけど、お母さんの友達、いつもいつの間にか来なくなるんだ。本当のお父さんじゃないから、みんなすぐいなくなっちゃう。馬場さんだってきっと……」

「そんなの……わかんないじゃん」

「僕、金髪だもん。自分の子供じゃないから、みんな嫌なんだよ。お母さんが一人なのも、きっと僕のせいだよ」


私は口元を両手で抑えた。

――なんてこと。
浅黄はそんなことを気にしていたんだ。

私が男と別れたのは、浅黄のせいなんかじゃないのに。


「それ、浅黄のママも言ってた。浅黄のパパなら金髪じゃなきゃおかしいでしょって」

「おかあさんが? ……そっか。そうだよね」


浅黄はますますうつむいていく。

違う。そういう意味じゃないの。
どうしよう。私の言葉が浅黄を傷つけてる。


「僕、なんでもひとりでできるようにならなきゃ。いらない子になっちゃう」

「そんなことないよ、浅黄! 浅黄のママ、浅黄の事大好きじゃんか」

「……ありがと、幸太。でも、僕、よくわかんないや」

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