キミが欲しい、とキスが言う
手が震える。これ以上聞いてたらいけないと、頭の中で警笛が鳴る。
「浅黄はいらない子なんかじゃないぞ」
幸太くんの声が、どんどん真剣なものになる。
「そんなこと言うなよ、ばかっ」
優しい叱咤だ。聞いているだけで泣けてきそうになる。浅黄もきっとそうだろう。現に声が潤んでいる。
「……うん。ありがと、幸太」
「浅黄っ、サッカーの続きしよう!」
励ますような幸太くんの声。
あの子がどれほど幸太くんの存在に救われているのか、このやり取りだけでも痛いほど伝わってくる。
自分だけでは、浅黄を守り切ることさえできていないことも。
私は踵を返してきた道を戻った。
家には、遠回りをすれば公園を通らなくても帰れる。一心不乱に、自分の影を見つめながら歩き続けた。
その間も、先ほどまでの言葉が頭をめぐる。
きっと浅黄は、私といて安心できないんだ。だから、いらない子にならないように必死に頑張っているんだ。
……両親の言う通りなのかもしれない。
自分のこともままならないような私が、まっとうに人を育てられるわけがない。
浅黄は、私のそばにいない方がもしかしたら幸せになれる?
長く伸ばした爪が、掌に食い込んでいる。
仕事柄、ネイルは欠かしたことがない。手先は、案外見られているところだからだ。
でもこの指先は、保護者会にいけば蔑みの対象となる。“ほらあの人”と指さされた先にある、私の整った指先。
仕事に対して必要なことをしているだけなのに、異端を突き付けられる。
これが私の生き方だと胸を張っても、まっとうな大多数の人に押しつぶされる。