キミが欲しい、とキスが言う
つい先日、橙次の結婚お祝いの時にもなんか変なことを言われたけど、あれも本気なんだかどうかさっぱりわからないし。
「これから帰りですか?」
「え? うん」
「俺もです」
そう言って、彼は私の隣に立ち、歩き始める。
「……うん?」
それは一緒に帰ろうってこと?
前に出る長い足を追って、私もヒールを鳴らして続く。だけどコンパスが違うから距離が徐々に開いていく。
一歩分の距離が空いたところで、彼はチラリとこっちを見て、急に歩調を遅くした。
追いつけないのに気づいてはくれたみたい。
でもなんで私、彼と一緒に帰ることになってるの?
そもそも方向は同じなのかしら。
馬場くんはいつも言葉が足りない気がするわ。訳が分からない。
「……この間の返事を聞きに来ました」
「返事? なんの?」
おもむろに聞いた彼は、立ち止まると呆れたような表情で私を凝視した。
「言いましたよね、『少しはこっち向いたらどうですか』って」
「言われたけど。……え? それって返事がいるようなことだったの?」
「いるようなことだったんです。どうですか」
「どうって何が?」
「俺のことそういう対象として見れます?」
「そういうって、どういう……」
やっぱり言葉が足りないって。
そりゃ、そのセリフ聞いた時は、私に気があるのかなって思ったよ?
でも人前でだったしお酒飲んでたし、その場のノリってやつかと思ったのよ。
しかも具体的に付き合ってほしいとか言われたわけじゃなし、返事が欲しいほど本気だなんて思わないでしょう。