キミが欲しい、とキスが言う
＊

『……でも僕はあなたを連れていけない』


ダニエルの言葉がリフレインする。

学者の妻になるには、あまりに無学だったからだろうか。
ハーフだというのに、片言の英語しか話せない私は、とても外国暮らしなどできそうになかった？

それともやっぱり、私を愛していなかったの？

私はどうして、あの時それを問い詰めることができなかったんだろう。

どんなに傷つけられる言葉でも、身を切られるように辛かったとしても、答えを聞いておけばよかった。
そうしたら少なくとも先には進めたかもしれないのに。

あの時の別れを消化しきれていないから、いまだにダニエルの言葉にとらわれる。

私は選ばれない。愛されない。

浅黄だけは、私のそばにいてくれるって思っていたけど、それもいつまでか。
子供は私だけのものじゃない。
幸太くんに救いを求める浅黄を見ていると、それをまざまざと思い知らされる。

いつも幸せでいたくて笑っていたけど、結局私には何も残らないのかしら。
行き当たりばったりで生きてきた私が、やっぱりいけないの……？


「……ん」


何か冷たいものが、口に流れ込んでくる。


「飲んで」


脳内に声が響く。そっけなく思える言葉なのに、なぜか安心する。

飲めばいいの？
朦朧とした意識で、言われたとおりにする。喉を伝っていきながら体中にしみわたっていくみたい。


「良かった。もう一口」


唇に押し当てられた柔らかいもの。そこから流れてくる冷たい水。
喉を通っていく感覚が、意識を覚醒させていく。

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