キミが欲しい、とキスが言う
「よし。飲めたな。茜さん、目を開けて」
言われるがまま、重い瞼を開けた。
目の前に指が三本立っている。
「何本?」
「さんぼん」
「俺が誰かは分かる?」
視線をずらす。予想以上に近い距離に馬場くんがいた。
というか、肩を抱かれて横抱きにされている。
「馬場くん」
慌てて起きようとして、力づくで押し戻された。
「倒れたんだよ。寝てて」
「倒れた……?」
よくよく見ると、私はタオルケットでぐるぐる巻きにされていた。その下は下着姿だ。自分のしたことを思い出すのと同時に、浅黄のことが頭をよぎった。
「浅黄たち、公園で遊んでいるの。今日暑いから、あの子たちも中に入るように言わないと」
「……公園? 見てくればいい?」
「お願い」
「分かった。意識はしっかりしてるみたいだけど、茜さん、だいぶ顔色悪いからな。じっとしてろよ」
彼は私を抱き上げると、敷きっぱなしの布団の上に横たわらせた。冷凍庫から氷枕を出して、タオルに巻いて頭の下に入れてくれる。
そして、「すぐ戻るから」と部屋を出ていった。
ゆっくり周りに視線を巡らせると、すぐ近くに私が自分で脱ぎ捨てたワンピースが転がっていた。見ていると涙が出そうになった。自分がしたことを思い出していたたまれなくなる。
手を伸ばして、それを引き寄せる。脱ぐのが楽な服は着るのも楽だ。上半身だけ起こした格好でも着ることができた。
服の胸元をぎゅっと握る。
いくら切羽詰まっていたからとはいえ、私がしたこともどうかと思うし、流されてくれなかった馬場くんは、きっと私を軽蔑しただろう。
いつもそう。
考えなしに行動しては、私は自分を追い詰めてしまう。
どうしてこんなに馬鹿なんだろうと、唇を噛みしめた。