キミが欲しい、とキスが言う

「言ったでしょ。顔がどんなに笑っていても、俺にはあなたの声でわかるんだって。でも何に傷ついているのかは言われなきゃ分からない」

「……馬場くん」

「何があって、何に傷ついているんだか教えてください。でないと」

「でないと?」

「浅黄にさっきの行動ばらしますよ」

「ちょっとやめてよ、子供に何言う気?」

「お母さんが、男の前で脱いだとか聞かせたくないでしょう。嫌ならとっとと洗いざらい話してください」


馬場くんの顔は本気っぽい。

脅し? いやいや、でも子供にそんなこというような人じゃ……ないと思いたいけど、勢いで引っ越しまでしてくる人よ?
思い立ったら何するか分からないところはある。


「……きっとあなたの迷惑になるわ」

「迷惑かどうかは俺が決めます。というか、すでに茜さんが倒れたことで、俺、仕事休んでるんですよ。ここまで迷惑かけたんだから、ちゃんと話してくれないと」


そういえば、さっき一時間後には仕事に行くって言ったんだっけ。
時計を見たら、もうその時刻を三十分も過ぎている。


「今から行ってもいいのよ?」

「いいですよ。橙次さんにも了解とったし。何より、このままじゃ気になって手が付かない。俺が行くより、橙次さんがやった方が今日に関してはいいはずです」


なんだかんだと、橙次はこういう時信頼されてるんだ。
いいな。私も親と、そんな関係を築けたらよかったのに。

ここまで世話をかけて、黙っているわけにもいかないだろう。
私は諦めて話だした。


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