キミが欲しい、とキスが言う
「……実家の親がね、イギリスに永住したいって言いだしたの」
「イギリス?」
「母が英国人なのよ。私、ハーフなの」
「……道理で色が白いと思った。そうなんですか」
本気で知らなかったらしく、馬場くんは息を飲んで目を瞬いた。
「それで、……浅黄を連れていきたいって言われて」
「浅黄を?」
「私が半端者だから。任せるには心配ってことでしょう?」
「でも浅黄は茜さんの子供だ」
「そう。だから、私も来ないかって」
真剣な顔で、今度は馬場くんの方が黙った。
「……行くんですか」
「行きたくないわね。どうせあの人たちにとっては私なんて浅黄のついでだろうし。……でも、浅黄のことを思ったら、その方が幸せなのかもしれないわ」
馬場くんはほっと息を吐きだした。
「なんだ。じゃあ問題ない。浅黄は行きたいとは言わないと思う」
「なんで馬場くんにそんなことが分かるの」
「幸太もいるし。……何よりあいつは茜さんのそばを離れたくないと思う」
「そんなの分からないじゃない。私なんていない方が、もしかしたら浅黄は幸せかもしれないわ。いじめられる原因だって、私が作っているようなものだもの」
ひざを抱えて怒鳴ったら、馬場くんが呆れたようにため息を吐き出した。
「相変わらず、浅黄を信用してやらないんですね」
信用……?
だって全部本当のことだ。
私がお母さんじゃなかったら、あの子はきっと幸せになれた。
「だって。……私、浅黄に何もしてあげれてない」