キミが欲しい、とキスが言う
私が黙っていると彼は不愉快そうに眉を寄せる。その顔怖いわよ。余計告白されてるなんて思えない。
「そのままのつもりですけど。俺と付き合いませんか?」
「付き合うっていってもなぁ。何? カラダ目当て?」
言った瞬間に、馬場くんの目が険しくなったかと思ったら、右腕を強く掴まれた。
「きゃっ、びっくりしたぁ」
「まさか、今までそういう付き合いしてたんですか。橙次さんとも?」
内心はちょっと慌てたけれど、顔には出さないようにした。
そういう付き合いはしていたけど、橙次の方にあったのは恋愛というよりは友情だったような気がする。
体の関係を望んだのは私からで、彼は断る理由がなかったというだけだ。
できるだけ平静な声を保って答える。
「そうよ。でも私が頼んだのよ。割りきって付き合って欲しいって。橙次のこと悪く思わないで」
「それを受けたってだけでも反吐が出そうですけどね」
やばいやばい。
橙次と従業員の間に波風立てるなんてまずいわ。
まして【U TA GE】にはお世話になっているのに。
「……ホントに、橙次は悪くないの。あっちだってさ、好きな相手がいなかったから話にのったってだけだし。その証拠に、その関係って一年前くらいに終わってるのよ。そうそう、丁度つぐみちゃんがお店に入ったころ。だから、ね、もう時効」
「一年前……?」
馬場くんは私の腕をつかんだまま、考えを巡らすように視線だけ逸らした。
「そういえば、泣いていた時ありましたよね。ほら、夜中に【粋】で」
案外記憶力がいいな。