キミが欲しい、とキスが言う
*
「……どういうことだ、茜」
実家のリビングはいつもきちんと整頓されている。
大型テレビに書棚、そして対面のソファ。
一応お客である私たちが奥、手前に苦々しい顔の父が座り、母はお茶を運んでいる。
「だから、イギリスには行かない。私、結婚しようと思う」
「初めまして、馬場幸紀です」
隣で頭を下げた彼を見て、父のひざが怒りで震える。
「ふざけるな。お前この間付き合ってる男はいないと言っただろう。あれから半月も経ってないんだぞ、さては偽装しただろう」
ドンとひざを叩きながら威嚇してくる。
鋭いな。この人バカじゃないものね。
だけど私だって、伊達に何十年も父と反発しあってきたわけではないのだ。今更こんなのにビビったりはしない。
「失礼ね。あの時は……きっと反対されると思って言えなかっただけよ」
「嘘をつけ、こんな付け焼刃で結婚とか許さんぞ。本当にお前は自分勝手だな。浅黄がかわいそうだと思わないのか」
「どうして嘘だって決めつけるのよ」
一気にまくしたてながら立ち上がる父と私の間に、馬場くんの大きな手が入ってきた。
「ふたりともやめてください。子供が見てます」
言われて、ふっと隣を見ると、浅黄が眉をハの字にして私と父を見ている。
思わず顔を見合わせた私と父は、気まずさにそっぽを向いて座った。
「……どういうことだ、茜」
実家のリビングはいつもきちんと整頓されている。
大型テレビに書棚、そして対面のソファ。
一応お客である私たちが奥、手前に苦々しい顔の父が座り、母はお茶を運んでいる。
「だから、イギリスには行かない。私、結婚しようと思う」
「初めまして、馬場幸紀です」
隣で頭を下げた彼を見て、父のひざが怒りで震える。
「ふざけるな。お前この間付き合ってる男はいないと言っただろう。あれから半月も経ってないんだぞ、さては偽装しただろう」
ドンとひざを叩きながら威嚇してくる。
鋭いな。この人バカじゃないものね。
だけど私だって、伊達に何十年も父と反発しあってきたわけではないのだ。今更こんなのにビビったりはしない。
「失礼ね。あの時は……きっと反対されると思って言えなかっただけよ」
「嘘をつけ、こんな付け焼刃で結婚とか許さんぞ。本当にお前は自分勝手だな。浅黄がかわいそうだと思わないのか」
「どうして嘘だって決めつけるのよ」
一気にまくしたてながら立ち上がる父と私の間に、馬場くんの大きな手が入ってきた。
「ふたりともやめてください。子供が見てます」
言われて、ふっと隣を見ると、浅黄が眉をハの字にして私と父を見ている。
思わず顔を見合わせた私と父は、気まずさにそっぽを向いて座った。