キミが欲しい、とキスが言う

「どんな時も笑顔で、綺麗で接客上手で。茜さんは俺には無いところをたくさん持っている人です。俺のダメなところを、彼女が補ってくれると思っています。そして浅黄は、彼女の大切な一人息子です。俺は確かに子育ての経験もありません。浅黄の親になれるとは思っていない。でも、茜さんを大事に思ってるって点は浅黄と一緒です。親になれなくても、同士にはなれる」


そしておもむろに、頭を下げる。


「茜さんも浅黄も、イギリスにはやれません。俺に……二人を任せてもらえませんか」


その無骨だけど真摯な態度は、父の中の何かを動かしたのだろうか。
重いため息を一つつくと、ひざに乗せた手に力を込めて、前のめりになった。


「……幸紀くんだったか」

「はい」

「先ほどは失礼した。茜は奔放で、人の言うことなど聞かないような娘だ。数年はよくても、ずっと付き合っていれば手に余るぞ? それでも君は茜でいいのか?」


何気にこき下ろされているけれど、あの頑固親父が馬場くんの話に耳を傾けてくれるようになっただけすごいと思う。
馬場くんは、ふっと微笑むと体を前に出す。


「……いつの間にか好きになってしまったので、嫌いになりようがない気がします。俺も、この人頑なだなとか、人の話聞かないなとか思いますけど」

「ちょっと」


なぜあなたまで私を貶すのよ。
睨んでやったら、平然と微笑み返された。


「……でも、俺は茜さんの声を聴いていると癒されるんです。理屈じゃないので、うまく説明はできませんが」

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