キミが欲しい、とキスが言う


 それからすぐの金曜日は、町内児童会の親子遠足だ。

行き先は、健康増進総合センター内に併設されている室内プール。
小難しい名前のそこは、会議室を借りるだけでなく、ケータリングを頼むこともできて、私たちみたいな子供を含む団体のレクリエーション目的や、ちょっとした食事つきの会議なんかにもよく利用されているらしい。
送迎バスも完備されているので、親子遠足は例年ここで行われるらしい。


 集合場所の公民館からバスに乗り込む。親子遠足といえども、どうしても都合がつかず子供だけが参加する家も多い。子供二十人に対して、大人は役員である私と美咲ちゃんを含めて十人。自然に、子供は子供だけで集まって座り、送迎バスの奥の席は携帯ゲーム大会の方になっている。

下むいて酔わないのかしら、なんて心配になるけれど、案外平気なようだ。


「子供ってゲームばっかり好きよね。なんでプール行くのにゲームがいるんだっつの」

「確かにね。でも、あれで遊んでいるときは静かだもんね。楽なのは確かだわ」

「まあね。私だってやりたいことあるときはゲームいいよって言っちゃうもんなぁ」


私と美咲ちゃんは一番前の席でそんな話をしていた。お菓子を配り終えて、現地につくまでは運転手さんにお任せというところでほっと一息ついている。


今日は馬場くんは昼番だと言って、朝、出がけにお見送りしてくれた。

誰が見張っているわけでもないのに、彼は上手に婚約者を演じてくれている。

このまま“ニセ”じゃなくて本物にしたいと言ったら、馬場くんや浅黄はどんなふうに受け止めるんだろう。

私は頭を振って自分勝手な考えを振り切った。結局、現状維持を続けるしかない。最低でも両親がイギリスに行く九月までは。

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