キミが欲しい、とキスが言う
「やっぱり、そうなんだな。実は、数年前まで君を探していたんだ。ダニエルくんに頼まれて」
「……ダニエルが?」
「そうだ。【ハニーアイス】にも行ったけれど、辞めた後は知らないの一点張りだった。まさかこんなところで会えるなんて」
それはこっちがびっくりだ。大学教授がなんでこんなところにいるの。
「茜ちゃん?」
怪訝な声で呼びかけるのは美咲ちゃんだ。受付で受け取ってきたロッカーのカギが入った箱を片手に持っている。
「……あ」
私は完全にパニックになっていた。
助けを求めるように美咲ちゃんを見つめると、彼女はさも何でもないことのように緩く笑う。
「会議室Aだから。先行ってるね。さあ、みんな移動しますよー」
美咲ちゃんにつられて、子供たちはすぐに興味が移ったけれど、他のお母さんたちは違う。いまだ興味津々な様子で私と森田さんを見ている。
ああ、噂話の種を与えてしまったような気がする。
「僕……」
「浅黄も先に言っていなさい? 幸太くんのママの言うこと聞いて」
「う、うん」
迷いながらも、浅黄はちらちらと森田さんを見ながら、集団についていく。
話が聞こえないくらい遠ざかったのを確認してから、私はわざとらしく大きなため息をついた。
「……困るわ、森田さん」
「悪かったよ。でも、子供ができていたなら、なぜ黙っていたんだ」
「捨てられたのになぜ教えなきゃならないのよ」
「捨ててなんかない。ダニエルくんは、君に会うために戻ってきたんだぞ?」
私は片眉を上げて森田さんを見た。
戻ってきたってどういうこと?