キミが欲しい、とキスが言う

私はちゃんと笑顔になれていたのかしら。ポーカーフェイスは得意だけれど、今回のは衝撃が大きすぎる。

とにかく、まずは私がしっかり考えなくちゃ。
森田さんの話では、ダニエルもここに来るという。もし彼が私と浅黄がここにいることを告げたら、会いに来るかもしれない。

そこまで考えて、でも……とも思う。

彼が私たちにそんなに執着するかしら。
だって、先に手を離したのはダニエルだ。捨てられたのは私の方。なのに、今更追いかけられたりする?

森田さんの言い方だと、彼が私を探していたらしいけれど、そんなの信じられない。
私は彼にとって、若気の至りの過去でしかないはずだ。


納得できないまま会議室に戻ろうとすると、部屋の方向から言い合うような声が聞こえて、私は慌ててかけだす。
そして、そこにふたりの人影を認めた。

一人は、夏らしいカラフルなタンクトップワンピースにパーカーを羽織った美咲ちゃん。その彼女に身を乗り出すようにしてまくしたてている、右手にジャケットを抱えた金髪の男性は……ダニエルだ。

心臓が大きく揺さぶられる。
服装のせいなのか、すごく堂々とたくましく見えて、本当に彼なのか疑うほどだ。


「だから、……お願いです」

「いやあの。でも……あ」

「アカネに会わせてください。……アカネ」


美咲ちゃんの視線の動線にそって、ダニエルが私をとらえた。

彼の表情が、驚きから喜びに変わっていくさまが、私にはスローモーション映像のようにうつった。


予想外だ。
再会を想像したことさえなかったのに、ましてこんな顔をされるなんて。

予想外過ぎて呆然としてしまい、抱き寄せてきた彼の腕を払うことができなかった。

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