キミが欲しい、とキスが言う
「アサギ。お父さんだよ」
「おとう……さん?」
疑念を含んだ視線が私をとらえる。私は黙ったまま、唇をかみしめた。
「そうなの? お母さん、あの人が」
「そうだよ。ほらごらん。君と僕は、こんなに似たところがあるじゃないか」
金の髪も、目元も、確かにダニエルと浅黄は似ている。誰が否定をしたところで、親子だと納得できる程度には。
「お母さん、本当?」
それでも浅黄は私に問いかける。彼の中では、私の答えが全てなのだろう。
私は浅黄の頭を抱え込んだ。ダニエルの視線から隠すように。
「……違うわ」
「アカネ!」
「私はひとりでこの子を産んだのよ。あなたは何も関係ない。講演会があるんじゃなかったの。いつまでもこんなところで油を売るのやめてさっさと行ってちょうだい」
「……っ」
ダニエルは、力なく両手をだらりと垂らした。そしてぽそりと途方に暮れたようにつぶやく。
「Still I'm your father(それでも僕は君の父親だ)」
昔、別れ際に聞いた時とよく似た絶望交じりの声が、心臓をザワリと撫でつける。
魂まで持っていかれそうで、必死で浅黄を抱きしめた。