キミが欲しい、とキスが言う
10.彼は未来を描き出す
家の最寄り駅について、真っ先に目に入ってきた金髪に、私は息を飲んだ。
浅黄のモノではない。なぜなら、その金髪は帰宅する会社員が多い人込みの中でも少し飛び出していたから。
動きを止めた私を、馬場くんが怪訝そうに見た。
「茜さん?」
立ち止まっていると自然に人がよけていく。そのせいか、私たちの前に空間ができ、視線の先にいる彼と目が合った。
「……ダニエル」
「金髪……もしかしてあいつが?」
確かにダニエルがそこにいた。昼間見たスーツ姿で、私を見つけるなり近づいてくる。必死の形相で、全身から汗が噴き出ている。
でもどうしてここに?
「アカネ。よかった見つかった!」
「どうしてあなたが」
「会場に町内会の名前が書いてあった。ネットを使えば大まかな場所くらいは特定できる。講演会が終わってすぐに飛んできたんだ」
確かに健康増進総合センターでは、『歓迎』と銘打って当日の予約の団体名を記入している。
それを見たっていうのか。なんて抜け目のない。
「何しに来たのよ」
「もちろん話をしに来たんだ。弁解させてほしいと思って。……でも、茜が僕を拒絶するのは、もしかして彼がいるからかい?」
ちらりと、隣にいる馬場くんを見つめる。彼は私とダニエルを見比べて、彼の方に頭を下げる。
「馬場と言います」
「ダニエル=ブラウンです」
「悪いけど、今それどころじゃないのよ。帰って、ダニエル」
「嫌だ。今日を逃したら君とは連絡が取れないじゃないか」
「あの」
ダニエルが私の腕をつかみ、その手をさらに上から馬場くんが抑えた。
強く握られたのか、ダニエルは顔をしかめ、私から手を離す。