キミが欲しい、とキスが言う

「寂しくさせて、ごめんね。浅黄」


言ってから、はたと思いつく。ああ、そうだ。こういう時はごめんねじゃなかったんだっけ。


「いつも頑張ってくれてありがとう」

「……うん」


今度は顔をあげて、にっこり笑ってくれた。その誇らしげな様子を見ているだけで、嬉しくて、胸が詰まって、言葉がこぼれだしてくる。


「浅黄が大好きよ」

「……へへ」


嬉しそうな声が、嬉しい。それだけでもう何にもいらない気持ちになる。


 しばらくして、人の動く気配がした。それまで、私と浅黄を見守っていた馬場くんが、浅黄の隣にやってきたのだ。


「浅黄」

「馬場さん?」

「話がある」

「馬場くん。今日は……」


正直、今日はダニエルのことが片付いただけで私も浅黄も疲れている。
これ以上の話は明日にしてほしい、と思ったのだけど、彼は視線で私の言葉を止めた。


「大事な話だ。聞いてくれるか?」

「う、うん」

神妙な態度の馬場くんを前に、浅黄が正座する。彼はふっと微笑んで浅黄を見つめ、優しく頭を撫でた。


「俺、茜さんが好きなんだ」

「馬場さん?」

「浅黄のお母さんのことが、本当に好きなんだ。だからニセの婚約者じゃなく、本物になりたいと思っている。浅黄はどう思う?」


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