キミが欲しい、とキスが言う

すぐに深くなる彼のキス。体をなぞる手が胸にかかる。

ふすま一枚挟んだ隣には浅黄がいるから、当然大きな声は出せなくて、私は変な声が出そうになるたび手で口を押えた。


「ん、馬場く……」

「好きだって言って。まだ信じられないから」


その言葉は、ズルい。言えないなんて、言えなくなる。


「……好きよ。大好き」


細い目が柔らかいカーブを描く。
ああ、笑ってくれるのね。

それが嬉しくて、私も自然に笑ってしまう。


「俺も好き。愛してる」


一瞬馬場くんが立って、電気を消す。
カラン、ともう一度氷が鳴り、そういや飲んでなかったなと思いだす。
でもそれも一瞬で、再び彼の掌に翻弄される。

カーペットの上に散らばる衣服、荒い呼吸。声をこらえるために、噛んでいた指には歯形がついている。
途中でそれに気づいた彼が、私の口から手を外して代わりに自分の指を差し出した。


「噛んでもいいよ」


さすがにそれは、と思ったけれど、結局三回ほど噛みついてしまった気がする。


絶頂を迎えた後も彼は私を離さず、腕枕をしながら何度も顔にキスを落とす。そして、楽しそうに未来の展望について語っていた。


「三人で暮らすなら、もう少し広いところに引っ越そうか。今度一緒に探しに行こう。浅黄が転校せずにすむところがいいよな」


嬉しそうな彼の声は、絶好の子守歌だった。夢見るような気持ちで聞いているうちに、すとんと眠りに落ちていく。




 翌朝、私が目覚めたのは浅黄の隣に敷かれた布団の中だった。
確か裸のままで寝てしまったと思うのに、服装は昨日のままで、ちゃんと下着も身に着けている。

馬場くんが着せてくれたの?
想像すると恥ずかしさは半端なくて、口元を抑えながら馬場くんの姿を探す。

なのに、彼の姿は部屋の中になくて、私は一瞬、昨日のことは夢だったのかと不安になった。


リビングに出て、テーブルに残されたままの麦茶を見て、どれだけ安堵したかは言葉にできない。


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