キミが欲しい、とキスが言う
エピローグ
私の両親がイギリスに旅立ったのは結局九月の半ばを過ぎていた。
計画していたリフォームが長引いたのと、家の売却手続きでもめたことによる。
「だからさっさと籍を入れろと言っているんだ」
私たちがついていかないとなった時点で、父親は家を売却するのを辞めたらしい。それよりは私に相続させた方がいいと思ったのだそうだ。しかし、父的には私に施しをするのはまっぴららしく、できれば馬場くんに渡したいらしい。
ある日、私たちを呼び寄せていきなりまだ籍を入れていないことを糾弾された。
「茜とは本気なんだだろう? だったら君に渡したいんだ」
「でも、実際に血縁の娘は茜さんなんだから、茜さんに相続させては」
「茜は調子に乗るから嫌なんだ。家が手に入って安心して君と別れるようでは困る」
いったい私はどういう認識をされているのか、腹が立つけれど黙っていた。
今まで勝手にしていたのは事実だから、信用されないのも仕方ないのかもとは思えるし。
馬場くんも困り果てたように、妥協案を出す。
「……じゃあ、しばらく貸していただくということでどうでしょうか。結婚すれば姓も変わるわけですし、浅黄のことも考えればすぐにどうこうできることじゃないし」
「しかし、我々もすぐ帰ってこれなくなるから、できればきちんとしてから行きたいんだ」
馬場くん相手にまくしたてる父親がうるさいことこの上ない。
頭が固いおっさんの考えそうなことで呆れてしまう。