キミが欲しい、とキスが言う
火曜日、私は馬場くんのお休みに合わせて仕事を休んだ。平日だから浅黄は学校。
週末にレンタカーを借りて一気に引っ越す予定で、その前にできるものから段ボールづめをしている。
「もう一度親に連絡してみたんだ。引っ越しして結婚前提の人と住むからって伝えたら、顔みたいからちゃんと連れてこいって」
「あ、そうなの?」
「子供がいるのもホステスしてるのもちゃんと伝えてあるから」
「なんて言われた?」
さすがに好きな人の親からの反応は私だって気になる。
反対されたって結婚は出来るけど、好かれるにこしたことはないじゃない。
「どうせ反対したって聞きやしないから、まずは連れてこいって。……俺ってどんな認識されてんのかな」
心底不思議そうに彼は言うけれど、私はなんとなく理解できるかも。
本気で怒ったら、馬場くんって怖いし。こうと決めたらテコでも動かないところがある。きっとご両親はそういうの理解しているだろう。
「だからさ、来週の週末、休みとってよ。茜」
「週末ってことは浅黄も連れて行くの?」
「当たり前。家族を見せに来いって言われてるのに、なんで浅黄を置いていくんだ?」
あっさりと言ってもらえて、胸がくすぐられたような気分になる。
彼が私とのことを考えるとき、浅黄のことも忘れずにいてくれることが一番嬉しい。
「……馬場くんがお店を持つころには、ホステス業辞めるからね」
「ん?」
「私、考えたんだけど。今は、経済的にもホステス続けてお金ためたほうがいいのかなぁって。ほら、いずれお店持つなら資金は必要だし。浅黄には少し寂しい思いさせるけど、どうせホステスとして必要とされるのも後数年くらいだろうし」